二階堂和美 nikaido kazumi

diary

2011.06.20

『タラとニカ』に寄せて

『タラとニカ』と『にじみ』という二つの作品が、どういうわけか、ほぼ同時にリリースされることとなった。
私にとっては、2枚組みたいなものだ。

『タラとニカ』のとっかかりは2008年春の録音。当時『ニカセトラ』の録音の終盤で、『ニカセトラ』の録音エンジニアを担当してくれていた東くん(『タラとニカ』のジャケットの真ん中にいる人)が、タラとの一回目の録音をしてくれた。だからタラとのセッションの中でも「蘇州夜曲」とか「赤とんぼ」なんかがスルッと出てきている(特典CDR収録)。また、『にじみ』の中のいちばん古い曲「あなたと歩くの」を作ったのもその頃。

タラとの2回目の録音は、『にじみ』の制作を決め、構想を固め始めた2010年5月。この頃は基本的にギター弾き語りでのライブは休止していて、気持ちはもうすっかり『にじみ』の制作モード。でもタラも珍しく一人で来るということで、無理矢理わたしもソロでツアーを共にした。ギターで「女はつらいよ」をやったりした。

そして『にじみ』の本格的な制作・録音に入った2010年10〜12月、タラが次々、録音した音源を編集して送ってきた。”二階堂和美アルバム着手記念ワンマン”のリハや新曲を書く傍ら、『タラとニカ』の選曲(”曲”というか、選”箇所”)、ミックス作業。

『にじみ』がミックス作業に入った頃、『タラとニカ』はジャケットや特典周りのあれこれ。

『タラとニカ』5月に発売。『にじみ』7月に発売。

この平行作業はけっこう頭が混乱した。
今それどころじゃない。というのがせめぎ合う。どっちも手を抜けない。
その上の震災。もっと大きな「それどころじゃない」。

しかしながら、だからこそのエネルギーが、この2枚には宿った気がします。
私にとって、いわば『にじみ』は本番、あるいは家。
『タラとニカ』はつかの間の休憩時間、あるいは旅。
休憩時間あるいは旅ならではの遊びと緊張。
それをタラが丁寧に引き出し、すくってくれた。
それをスイート・ドリームスがリリースしてくれた。
もったいないくらいの有り難さ。

『タラとニカ』への思いは、CDのライナーノーツにも綴らせてもらったけれど、
ほんとに、タラとでなければできなかった。
言葉が巧く伝わらないからこそ、ダイレクトに伝え合えるものがあった。

この『タラとニカ』と『にじみ』は、表面的には全然違うかもしれないです。
もしかしてどっちかだけが好きという方があるかもしれない。
ありがたいのは、この2作が自分の過去と現在なわけではなく、
どちらにも今現在の自分が写し取られていること。
この2枚を作っていた2008年からの4年間は、わたしにとっての大きな”現在”。
きつかったけど、『にじみ』と『タラとニカ』の同時進行は、きっとよかった。
この2枚が全然似ていないのも、互いに刺激し合ったからこそかもしれない。

タラが今日、また日本に来た。らしい。さっき電話があった。
6度目の来日で、明日、タラははじめて広島の我が家に来る。
そして夏にはわたしがタラの住むアメリカへ8年ぶりに行く。