二階堂和美 nikaido kazumi

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つれづれにか vol.40

掲載:QUATTRO PRESS vol.86 / PARCO-CITY FLYER 2009 June

イギリス/スコットランド ツアー 2006 日記 その14

Q40horizon.jpg4月21日(17日目)
 それにしてもすごいところに来ているものだ。窓をあけ、外を眺める。何もない。こうして机についてふと左の窓からの眺めが地平線って。・・・静かだ。とてもこれからライブだなんて思えない。礼子さんが炊いている豆のにおいがし始めた。このメンバーでとてもよかったように思い始めた。最初のうちは悶々としたが、今はとても落ち着いている。と思うもつかの間、リハから本番にかけての些細な不満に感情が高ぶり、「狭い」とか「いっつも一番目ばっかりやだ!」とつい本音を口走ってしまった。が寒々しい反応に、言い損だった、と余計がっかりして部屋に逃げ帰り、でも落ち着こう、と、さっきはあんなに幸せだと思っていたじゃないか、とか、もう一番目にやる代わりに後がやりにくいくらいいいライブをしてやる、とか、この発想なんて性悪なのかとさらに落ち込み、昨日移動中に沁みた「アラビアの唄」を口ずさみながらぼろぼろ涙がこぼれ、単なる涙腺のストレスだったのかも、と白け始め、今日記を書くならどんなことを書くだろう、と思いとどまり、海苔を取り出しむしゃむしゃ食べて落ち着きを取り戻した頃、さやが部屋をノックしてきて、今日自分たちが一番にやろうか、と申し出に来てくれた。やはり多少響いてくれていたのかと思うと安心し、それは友人の人間性に安心したのであって、もはや順番などはどうでもよかった。「やりたい?」とまた意地悪に聞き返してしまったが、話し合いまとまった。さやとあまり大きなけんかにならないのは、彼女が私のイヤミに食いつかず流してくれるからかもしれない。私はとてもイヤミな性格だと思った。歯磨きしながらコーヒーを入れて持って歩くジョンの後ろ姿が見えた。ごめんねジョン、さっきイラってきて。
 テニスに一番にやってもらえた効果はいただいてライブはうまくいった。でもやはり一番をつとめるのは私の方が良さそうだ。お客さんはおばさんおじさんがほとんどだった。みんな羊そっくりだった。マヘルの全新曲、「Sheep」とか地名とか身近なものシリーズは、うけて楽しかった。ビルのもなんか盛りあがって出来たので楽しかった。やっぱり意地を張って自分を守るより素直にやって楽しくなる方がいい。終わった後も、私たちが食べて寝るまでビルはまだ話し込んでいたから、よほど思うとこがあったか、機嫌がよかったのだろうと思われる。私も、たべてのんでしゃべってごきげんになって、そのままスカートはいたまま寝た。そういえばお客さんに、日本語の話せるおばさんがいて、ここは稚内に似ていると言ってたので、では稚内に行こうと思う。

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