二階堂和美 nikaido kazumi

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つれづれにか vol.21

掲載:QUATTRO PRESS vol.67 / PARCO-CITY FLYER 2007 November

 風邪気味で内科に行った。待合室で、さて、どんな本を手に取るか?お、と目に入ったのは、小学生向けの伝記集。大きな字で、30人くらいの偉人がかなり大ざっぱに紹介されていた。
 先日とある読書系情報誌の取材で、”気になる一冊”を選んでくれとの依頼があり、弱った。この数年まともに本を読んだ覚えがない。この数年どころか、実は本は滅多に読まない。活字を欲する気持ちは大いにあるが、2,3ページから先へどうも進まない。物語や小説も、短編はよいが、少し長くなるとどうも構えてしまってとっかかりにくい。10代の頃からその事実に納得がいかず、本好きの友人に出会うとその秘訣を聞くのだが、「それはその本が面白くないんだろう」という。
 病院の待合室で思った。そういえば小学生低学年の頃、祖父が買ってくれるというので一緒に書店に行って選んでもらった「偉人の話」。「イジン」ってなんだ?と思った記憶が鮮明に残る。ともかくこの本がいたく気に入り、その後ヘレンケラー、野口英世、とそれぞれの単行本を図書館で借り始めたが、人の人生のボリュームにへこたれたのか、続かなくなった。
読書きっと私が好きなのは、人の人生をたかだか2~4ページの絵本で紹介していく、あの大ざっぱさだ。どう考えても簡略化しすぎだが、その抜粋加減が、私にとってはとても奇妙でユニークで、下手な作り話よりもずっと想像力をかき立てられる。「行間を読む」の本来の意味とは違うが、文字通り、行間ではしょられた時間に思いを馳せ、またその執筆者のセレクトセンスに思いを馳せ、へえ~、なんて思うのがどうも楽しい。また、その人の人生を自分の身の回りへ引き寄せ、何かと結びつけてあれこれ考え始める。宙を見つめてそういう空想にふけっていると、本はいつも最初の数ページで閉じられてしまうのだった。
 お昼間、道に黒い影が動いていると思って見上げたら、とんびだった。

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