『にじみ』によせて

 とうとうマスタリングが終わりました。
 いつまでも続いたらいい。と思うほど、このアルバムの制作期間は充実していました。

 自分の言葉を、自分のメロディーで歌いたい。
 一人で立つステージを重ねながら、ふつふつとそんな思いが湧いてきました。「二階堂和美はカバーのほうがいいよね」とか言われてもいい。10年前にはなかった思いを今、紡いでおきたい。本当にやりたいことを形にしておきたい。そんな自分の満足感を充たす目的から着手したアルバムでした。そんな中で次々に出会ってゆく今回のバンド・メンバー。自分にとって最高のアルバムになる。かつてないほどの希望に燃えました。アルバムタイトルも、そんな思いを込めたものを半年前から決めていました。
 そんな折の3月11日。最後の録音を終えて解散した日でした。事態の大きさに、果たして自分の満足感のためのアルバムなど、作っている場合か。出すべきではないのではないか。続きの作業も一時手につきませんでした。しかしそれからひと月、やはり私にとって今、誰かを励ませることがあるとしたら、慰められることがあるとしたら、一番近くにあるのは、やはり歌。このたびの震災の爪痕は、あまりにもむごく、すさまじいものではあるけれど、一寸先はどうなるかわからないこの世のはかなさ、あやうさ、いとおしさを念頭に綴った曲たち。改めて聴き返しながら、このアルバムは、出してもいいはずだ。そう思いました。
 そうして、仕上がってゆくにつれ、自分のやりたいことをめいっぱい詰め込んだアルバムであるという思いから徐々に離れて、作品が昇華してゆくのを感じました。これにつけるタイトルは、私と作品の距離感を表すものではなく、作品が作品だけで立ってゆけるものにしたい。
 『にじみ』。大切なことを思って泣いたり笑ったりするとき、そっと寄り添える歌であれたなら、こんなに嬉しいことはありません。

 マスタリングを終えた翌日、ピアノのみどりちゃんのお腹が破水。ライブも録音も共にしてきた赤ちゃんが、予定日より半月も早くこの世に生まれてきてくれました!

 驚きと希望、溶け合いにじみだす「何か」とともに。
 合掌。

2011年5月9日

二階堂和美