二階堂和美 nikaido kazumi

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二階堂和美 with Gentle Forest Jazz Band『新春ワンマンパーティー2017 THE 新年会!』

はじまりはおずおずと。パッと灯りがついたら、Gentle Forest Jazz Band(以下、GFJBって略します)のジェントル久保田がトロンボーンを持って現れる。順々に舞台の中央にホーン・プレイヤーたちが歩み寄り、自慢の音色聴かせてゆくうちに、彼らひとりひとりがいかしたプレイヤーであると知らされる。ピアノ、ギター、ベース、ドラムスのリズム・セクションが4個のタイヤなら、13人のホーン隊は火花を吹かすエンジンだ。指揮者にして司会者のジェントル久保田は、このドライヴをご機嫌な道中に変える運転手だろう。後部座席には3人娘のジェントル・シスターズ。そして、助手席に乗り込んで、これからはじまる宴へとみなを誘うマダムは二階堂和美(以下、ニカさんって略します)!

満開の白い花のようなドレスで現れたニカさんが舞台に登場し、歌いだしたのは、昭和のブギウギ・クイーン、笠置シズ子の名曲「ヘイヘイブギー」。

歌う横顔がちょっと美空ひばりみたいに見えて、思わず近くにいた角張くんに「(美空)ひばりさん入ってるね」と話しかけた。そしたら、答えが「全部入ってます」。「全部ってなんだよ(笑)」と思った。だけどこの夜、たしかにニカさんのちいさな体には、全部が入ってた。ひばりにチエミにいづみにシズ子、はるみにさゆりになおみにチータ、ビリー(ホリデイ)にニーナ(シモン)に(エディット)ピアフにカルメン(ミランダ)。入っていたのは数々の偉大なる歌の先人たちと、歌で表現できる人間の喜怒哀楽、その全部なんだ。

おっと、いきなり歌の神様たちの走馬灯に囲まれてしまいそうになったけど、まだ新年会ははじまったばかり。「いてもたってもいられないわ」でニカさんが踊り狂っているところ。あんなドレスでよく踊れるなと思ったら、靴はしっかりスニーカーだった。足はしっかり戦闘モード!

アルバム『GOTTA-NI』時のインタビューで、すこしだけ反省してることがぼくにはある。ニカさんとGFJBのライヴをして、失礼にも「”ゴジラ対キングコング”を思い出す」と言ってしまったこと。それって「ふたりのビッグショー」のもっとすごい版をイメージして、GFJBが大所帯(この夜は総勢21名)で繰り出す演奏のパワーがニカさんのモンスター的な歌力を引き出していることの比喩にしたつもりだったし、ふたり(ニカさんとジェントル久保田)とも大笑いしてくれたけど、もっとちゃんといえる言葉があったよな。ふかふかの羽毛のベッドみたいに繊細で重層的なやわらかさを表現できるのもビッグバンドの醍醐味だ。「とつとつアイラヴユー」から「PUSH DOWN」への流れを聴きながらあらためて痛感した。

まさかの広瀬香美「ロマンスの神様」カヴァーでキネマ倶楽部を巨大なカラオケボックス(観客も「Fallin’ love」コール&レスポンスで乾杯)に変えてみせる街場のイリュージョンを発揮したあと、「いつのまにやら現在でした」で中締めして、ニカさんはお色直し退場。これで幕間かと思いきや、3人娘ジェントル・シスターズのチャーミングなコーラスとスキャットをフィーチャリングした2曲「Gentle Sisters Boogie」「おとこって おとこって」が最高で、全然お休みしてる場合じゃなかった。

そして聴こえてきたのは、あのイントロ。
「それではもう一度ご登場お願いしましょう。レディース・アンド・ジェントルメン。二階堂和美。二階堂和美!」

紫のタイトなドレスで再登場したニカさん。今度は足元はヒールだ。歌い出したのは「女はつらいよ」。

ドレッシーな装いが物語るように、後半の皮切りはしっとりとせつせつと。「伝える花」「私の宝」と女心のデリケートゾーンにそっと触れる名曲が続く。場がしっとりとうるおったら、それをしっちゃかめっちゃかにかき回して音楽スープにするのが”GOTTA-NI”流だわよと言わんばかりに、ジェントル久保田がニカさんに捧げた「Nica’s Band」が炸裂。最高のラヴバラード・アレンジの「Lovers Rock」を挟んで、「あなたと歩くの」「お別れの時」(トロンボーン、大田垣”OTG”正信が飛び入り参加!)でキネマ昇天。

あれ? いつの間にか、ヒールは脱げて、ニカさんは裸足になっていた(確認したら「あなたと歩くの」のアウトロでスキャットしながらうしろに蹴り捨ててた。最高!)。つけまつげも吹っ飛んだ。それでも最後にもう一度ヒールを履いて、深々とお辞儀をするように「いとしい気持ち」が歌われた。

アンコールの一曲として歌われた「いつも心にシャボン玉」。この曲はGFJBが全面的に参加している小松政夫さんの芸能生活50周年記念公演「~いつも心にシャボン玉~」の主題歌(作詞:相田毅、作曲:ジェントル久保田)で、「この曲をこれから私たちのスタンダードにしていきたいと思います」とニカさんはMCした。小松政夫さんが生きた「シャボン玉ホリデー」の時代と、ニカさんとGFJBが生きる21世紀をふわふわとつなげるこの曲が、いつまでも歌い継がれていくことをぼくも望む。そういえば、赤ちゃんから今年93歳になられるジャズ評論家の瀬川昌久さんまで、ほぼ一世紀分の観客がこの夜の宴を見守っていた。

ニカさんみたいな稀代の歌い手を評して、「歌の神様が降りてきた」なんてたとえをする人がいる。そういうことって、たしかにあるんだろうとは思う。でも、神様も、いつもいつも偉い人扱いされてさびしい思いしてるんじゃないかな。たまには肩を並べて遊びたいんじゃないかな。だから、歌の神様が天の岩戸からこっちをチラ見してたら、手を伸ばして、もぎ取って、ぎゅっと抱きしめてあげたらいいんじゃないのかな。ひとしきり楽しんだらまたバイバイって手を振ってさよならしたらいい。だってきっとまたいつか会えるから。アンコールで、「いのちの記憶」と、この日二度目の「お別れの時」を聴きながら、心からそう思った。

キネマ倶楽部ではじまって、キネマ倶楽部に戻ってきて、ニカさんとGFJBの一年の冒険はひとまず幕を下ろしたけど、きっとまた近いうちに会える気がする。歌の神様だって、いつでもこの遊び場に来たいって思ってるはず。

松永良平(リズム&ペンシル)
 


 
二階堂和美 with Gentle Forest Jazz Band
『新春ワンマンパーティー2017 THE 新年会!』
2017年1月22日(日) 東京キネマ倶楽部

 
写真:三田村亮
衣装:山本哲也(POTTO)
ヘアメイク:樋口あゆみ(CALM)

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