二階堂和美 nikaido kazumi

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つれづれにか vol.23

掲載:QUATTRO PRESS vol.69 / PARCO-CITY FLYER 2008 January

 新幹線のホームで「食べてってくださいー」と三角巾をつけた売り子のおばちゃんから差し出された甘栗。立ち止まることもなく受け取り、口に放り込んだ瞬間、ほわっと甘みが拡がり、テレビCMのように背景が色づくのを感じた。疲れた身体に、甘いものの効果はさすがだ。
 人とのやりとりの中で落ち込んだ時、立ち直らせてくれるのもやはり人。私自身も、時に人を傷つけているはず。だが時に誰かを勇気づけることができているかもしれない。でも私はそのことを忘れていたりして。いずれにしても、人間とは浅はかであてにならない、非常に危ういものだ。それでも私たちは人を頼りに生きてしまう愚かな生き物。仏教の教えに触れたり歴史を遡ってみると、昔の人も同じように悩み、翻弄されていた事がわかり感慨深い。そういうことが繰り返されて全てが動き、人の歴史は今日に続いているのだ。
「悩む~!」なんてつい言ってしまうことがあるが、私の悩みなんてたいしたことではない。だいたいが「悩み」というより単なる「迷い」な事が多い。どうしようどうしよう。どうすべきかこうすべきか。解決策の見えない悩みもあるが、うじうじするより行動しようとして、その優先順位もまた迷う。また選択か。ええい、迷う時間がもったいないとどれかに手をつければ、手をつけなかった方のことがどんどん腐っていく。時は待ってはくれない。が満を持すということだってある。どれもこれもちゃんとしようなどというのは欲張りだ。自分へのダメ出しはつきないが、ダメ出しばかりしていたらへこむ一方だし、時にまわりに甘えてみる。人によって怒られ、励まされ、尻たたかれ、なんとかかんとかやってみたらそこから先が見えた。山登りのようだ。人に頼りっぱなしなのは困りものだが、自分で何もかも背負うのはかえって傲慢。
寒いときのあたたかい汁物。暑い夏にもその恩を心にかけよう。

汁物

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